大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ラ)431号 決定

抗告人 藤井達郎(仮名)

相手方 藤井正子(仮名)

主文

原決定を取消し、本件を東京家庭裁判所へ差戻す。

理由

本件抗告の理由は別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。

よつて一件記録を調査するに、妻である相手方から夫である抗告人に対する本件調停の申立が、家事審判法第九条第一項乙類第一号に規定する事項のほか、同第三号もしくは第八号に規定する事項をも包合する趣旨であるか否か明かでないにかかわらず、原決定には右調停不調の結果抗告人に相手方と昭和三十一年五月三十一日までに同居することを命じたほか、抗告人が右期間内に右命令に従わないときは同人に相手方に対し、昭和三十一年五月十六日以降毎月金五千円を生活費として支払うべき旨命じた瑕疵がある。(もし右生活費の支払を命じた趣旨がいわゆる間接強制にあるとすれば、その許すべきものでないこというまでもなく、もしまた右趣旨が家事審判規則第四十六条第九十五条の臨時処分であるとするならば、右処分は原決定のように抗告人が一定の期間内に相手方と同居しないことを条件としてこれを命ずべきものでない。)なお一件記録を調査するも原審が支払を命じたいわゆる生活費額が相当であることを肯認せしむべき資料を発見し難いから原決定はこの点においても失当たることを免れ難い。よつて原決定を取消し、右の諸点を審理するため、本件を原審に差戻すべきものとし、主文のとおり決定した。

(裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 牧野威夫 裁判官 野本泰)

(別紙)

抗告の理由

一、民法第七五三条によれば夫婦は同居して互に協力し扶助しなければならない旨規律しています。固より同居の義務は夫婦同等且つ相互的であるから婚姻関係存続中同居して夫婦関係の実をあげ円満を期することは自明であります。

二、従つて同居を為しいまは実情存する場合即ち同居の請求が正当の理由を欠く場合は請求をなし得ないことは当然の理であり従つて請求権の濫用と申さねばならない。

三、そうだとすれば本件の場合正にこの場合に該当するものにして請求権の濫用として相手方の同居請求の審判は却下せらるべき筋合のものであります。

その理由とする処は

即ち相手方が昭和三十年十月二十一日夜十時頃生後間もない赤児を就寝せしめこの赤児を残して単身家出して行先を晦まし消息なく抗告人は余儀なくその筋へ捜査願を提出したそこで同年十月二十八日頃相手方の実家に戻りその報告を受けたものであるがその後一向に抗告人方に戻る気配も見せず、他方生後間もない赤児に対する関係も無愛情そのものにして抗告人との婚姻関係の継続する意思は全然見受けられない。

四、然も家出の際は身廻品全部風呂敷包二箇に入れ、時計、指輪、貯金通帳、印鑑、ハンドバツク、下駄等一切を持ち出したもので全く計画的の行動と見るしかなかつたのであります。

五、斯くして相手方の右行動に照し婚姻関係継続の意思は全然存せざるに或る目的のために本件の審判請求の申立を為すことは、同居請求権濫用そのものと申すしかありません仍て抗告人は相手方の婚姻関係を解消すべく請求準備中であります。

六、上記の次第でありますから本件は特に御審議を戴き抗告の趣旨通りの御裁判を願いたく本申立に及びました。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例